田園住居地域の特徴と土地活用の考え方

2018年4月1日に田園住居地域が用途地域に追加されました。

そもそも、なぜこのタイミングで田園住居地域が用途地域に追加されたのでしょうか。

記事では、

  • 田園住居地域とは何か
  • 田園住居地域が制定された背景
  • 田園住居地域で受ける用途制限

を解説していきます。

田園住居地域とは何か?を解説する前に、まずは用途地域の知識や田園住居地域以外の用途地域についてみていきましょう。

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用途地域とは何か

田園住居地域

都市を整えるための制度

工業エリアと住宅エリアが混在してしまったりすると、生活環境が悪くなってしまったり業務の利便性が失われてしまいます。
そこで、エリアを分けて都市を整備することで、住環境を守り住みやすく便利にする制度が作られました。
これが、用途地域です。

用途地域は日本全国すべての土地の用途を指定しているわけではありません。
主に人が多く密集して住んでいるエリアに当てられることが多く、乱開発が行われないように調整されているのです。

用途地域は全部で13種類に分けられていて、大きく分類すると住居系商業系工業系の3つになります。

用途地域が定められている土地では住宅や店舗など建物の使い方が決められています
さらに、高さや容積率なども定められており、区域内の秩序を乱さないようにルールが作られています。

用途地域の種類

用途地域には田園住居地域の他にどのような区域があるのでしょうか。

区域によっては、住宅の建設を不可とするような場所もあります。

目的区域概要
住居環境を最優先第一種低層住居専用地域低層住宅のための地域。小規模な店舗やオフィスを兼ねる住宅などが他建築できる。
第二種低層住居専用地域主に低層住宅のための地域。150㎡までの一定お店が建築可能。コンビニなども出店できる。
第一種中高層住居専用地域中高層住宅のための地域。大学などが設置できるが、住宅専用地域のためオフィスビルなどは建築できない。
第二種中高層住居専用地域主に中高層の住宅のための地域。2階以下で1500㎡までのお店や事務所、大学などを建築できる。
住居環境の保護第一種住居地域住居の環境を保護するための地域。大規模なマンションなどが建築できる。パチンコ店やカラオケボックスなどの建築は禁止。
第二種住居地域主に住環境を保護する地域。大規模店舗、カラオケボックスなども建築できる。
道路沿いで自動車関連施設と住居の調和準住居地域住宅系の用途地域で最も許容範囲が広い地域。200㎡より小さければ、映画館や営業用倉庫なども認められている。
農地と住居の調和田園住居地域低層住宅と農地の混在で良好な住環境を保つ。平成30年4月から導入予定の新しい区域。
映画館や倉庫、車庫が立てられる近隣商業地域近隣の住宅の住民に日用品などの販売を主とする商業地域。飲食店、展示場など建設可能。
商業地域商業の利便性を進めるための地域。一定の工場などを除いてほとんどの用途の建築物をたてられる。
準工業地域住宅と工場が混ざる地域。火災の危険や健康への有害度が高い工場は建設禁止。
工業地域環境悪化の恐れがある工場も建築可能なエリア。住宅・店舗の建設は可能だが、学校や病院は不可。
住居は建てられず、工場のみ工業専用地域石油類やガスなど危険物の貯蔵・処理の量が多くても可能。住宅や店舗は建築不可。

地価が高くなる用途地域とは

最も需要が高いのは、制限が少なく家でもお店でも建設することができる商業地です。

逆に用途への制限が厳しい第一種低層住居専用地域は一般的に土地価格が安くなります

田園住居地域は、第一種低層住居専用地域と同様、建てることのできる建物の制限が厳しいため、土地の価格は安くなります

用途地域の調べ方

売却や購入する不動産は契約前に用途地域を調べておいた方が良いでしょう。

売却の場合はどんな人に販売できるのか、土地活用はできるのか考えるための参考になるからです。

購入する際は、事前にどれくらいの高さの家が建てられるのか知ることができますし、周辺に今後どんな建物が建つのかある程度推測できます

お子さんなどがいる人は特に環境が気になるのではないでしょうか。

最も簡単な調べ方は不動産屋さんに「ここの用途地域を教えてください」と聞くことです。

それが難しいという方は不動産が所在する市役所に連絡し、「用途区域を教えてください」と連絡を入れましょう。

仕事が忙しい方の場合は、Web上で調べる方法もあります。

「市町村 都市計画図」で検索すると、各地域の区域がわかります。

詳しい使い方はこちらの記事で千葉県柏市を例に解説しています。

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用途地域

その他の方法として、家を購入されている方は契約前に不動産会社からもらった「重要事項説明書」の用途地域の枠を確認するというやり方もあります。

田園住居地域とは何か? 生産緑地との違い

田園住居地域
田園住居地域とは、都市農業と低層住宅の共存による良好な住環境の構築をコンセプトとした地域です。
都市部で指定される用途地域になります。

田園住居地域では、住居(マンションや兼用住宅も可)のほか、幼稚園から高等学校、診療所、小規模の店舗や飲食店といった生活に必要な最低限の施設は建築可能です。
しかし、大規模の飲食店やスーパー、事務所、映画館、ホテル、風俗施設などは建設することができません。

建物の制限は、第二種低層住居専用地域に準じているのですが、第二種低層住居専用地域との違いは、農業用途に関する緩和が行われており、農産物を生かした一定規模以下の直売所やレストラン、農業用の倉庫も建てられるようになっています。

実際には、低層住居専用地域の中でも、緑地としての農地保全が特に必要な地域で指定されると考えられますので、緑地不足になりやすい大都市圏や、地方の大都市を中心に今後増えていくでしょう。

よく、田園住居専用地域と生産緑地を混同する方がいらっしゃいますが、田園住居専用地域と生産緑地は別物です。
生産緑地は、市街化区域内にある農地で、一定の条件を満たして自治体に申請をすれば生産緑地に指定することができますが、田園住居地域は、行政の都市計画に基づいて行政が一方的に定めるものです。

市街化区域とは何かと疑問に思った方は、ぜひ下記の記事をご覧ください。

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用途地域

田園住居地域が制定された背景

田園住居地域
田園住居地域が新しく用途地域として設定された理由は、2022年問題を緩和するためであると言われています。

2022年問題とは、生産緑地地区制度の関係で、2022年に都市部の農地が次々と宅地として不動産市場に売りに出され、不動産が供給過多となり、不動産価値が下がるのではないかといわれている問題のことです。

かつて、東京をはじめとする大都市では、国の産業の発展に伴う人口増加に対応するため、市街地化を進めてきました。
しかし、全ての都市を市街地にしてしまうと自然がなくなり住環境が損なわれる危険性があることから、国は一定の農地を保全することを目的に1992年に生産緑地制度を制定しました。

生産緑地地区制度では、農地が一度生産緑地に指定されると、30年間は宅地に変更することができません。

2022年は、農地を宅地に変更して売却することが許される30年後にあたり、都市部においては、農地が宅地化され、一気に売りに出されるだろうといわれています。

農地が一気に宅地化されてしまうと、再び都市内の自然や農地が失われる危険性があります。この問題を防ぐ目的で制定されたのが田園住居地区です。

田園住居地区内では農地を変更しようとしたり、農地の上に建物を建てようとする際は、市町村長の許可を受けなければならない(都市計画法52条1項本文)ため、田園住居地区内の農地は宅地化することが難しくなります

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2022年問題

田園住居地域で受ける制限

田園住居地域
田園住居地域では以下のような制限があります。

・建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)
30%、40%、50%、60%のうち都市計画で定める値
・容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)
50%、60%、80%、100%、150%、200%のうち都市計画で定める値
・道路斜線制限(前面道路から一定距離までの高さ制限)
適用距離:前面道路の反対側の境界から20m
高さ制限:前面道路の反対側の境界からの距離×1.25
・北側斜線制限(北側隣地境界から一定高さ以上の高さ制限)
北側隣地境界(道路の場合は反対側の境界)からの距離×1.25+5m
・絶対高さ制限(建物の高さ上限)
10mまたは12mのうち都市計画で定める値
・日影規制(冬至日において隣地にできる日影の時間制限)
適用対象:軒高7m以上または3階以上
測定面の高さ:1.5m
時間制限:以下の1~3を自治体が条例で指定
1.隣地境界から10m以内は3時間、10m以上は2時間
2.隣地境界から10m以内は4時間、10m以上は2.5時間
3.隣地境界から10m以内は5時間、10m以上は3時間
・外壁後退(隣地から外壁までの最短距離)
都市計画で定める場合は1.5mまたは1m

また、田園住居地域内にある農地には農地を保全するために開発制限がかけられています

田園住居地域内における農地の開発制限

  • 現況農地における①土地の造成、②建築物の建築、③物件の堆積を
    する際は許可を取らねばならない

参考文献:田園住居地域の創設|国土交通省

田園住居地域に建てられる建物・建てられない建物

田園住居地域
田園住居地域に建てられる建物は、第二種低層住居専用地域とほぼ同じですが、大きな違いとして、農産物直売所や農家レストランなどの農業の利便推進に必要な店舗・飲食店や農機具収納施設等の農産物の生産資材の貯蔵に供する施設を建設することができます

【建てられる建物】

建物の用途その他の制限
住宅、共同住宅、寄宿舎、下宿
兼用住宅(非住宅部分1/2未満かつ50㎡以下)非住宅部分の用途制限あり
店舗等で150㎡以下(2階以下)日用品販売、食堂、理髪店等
店舗等で300㎡以下(2階以下)農産物直売所、農家レストラン等
幼稚園、小学校、中学校、高等学校
図書館等
巡査派出所、一定規模以下の郵便局等
神社、寺院、教会等
公衆浴場、診療所、保育所等
老人ホーム、身体障害者福祉ホーム等
老人福祉センター、児童厚生施設等600㎡以下
建築物附属車庫建築物面積の1/2以下、600㎡以下、1階以下
自家用倉庫農産物及び農業生産資材の貯蔵用途
洋服店、畳屋、建具屋、自転車店等(作業場の床面積50㎡以下)原動機0.75kW以下、2階以下
パン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋等(作業場の床面積50㎡以下)自家販売、原動機0.75kW以下、2階以下
危険性や環境を悪化させるおそれが非常に少ない工場農産物の生産、集荷、処理及び貯蔵用途

【建てられない建物】

  • 3階以上または300㎡超の店舗等
  • 事務所等(兼用住宅を除く)
  • ホテル、旅館
  • 遊戯施設、風俗施設
  • 大学、高等専門学校、専修学校等
  • 病院
  • 自動車教習所
  • 建築物附属車庫以外の車庫
  • 倉庫業倉庫
  • 農産物の生産、集荷、処理及び貯蔵用途以外の自家用倉庫
  • その他、建てられる建物に記載以外の工場

田園住居地域に住むメリット・デメリット

田園住居地域
田園住居地域と聞くと、宅地の中に農地が混在する不便な地域と考えるかもしれませんが、用途制限は第二種低層住居地域と変わらないのでそこまで不便ではありません。

田園住居地域に住むメリットは、

  • 閑静な住環境が保証される
  • 小規模な店舗や飲食店が建設できる

ことです。
一方デメリットとしては、

  • 大規模なスーパーが近くにないため買い物には不便である
  • 事務所などが建設できず、職場からは遠くなる

点が挙げられます。
スーパーや職場から多少遠くても自然があって閑静な住環境を望む小さなお子様をお連れのファミリー層には田園住居地域はオススメです。

田園住居地域での土地活用の考え方

田園住居地域
田園住居地域では、所有する土地が宅地なのか農地なのかで土地活用は変わります
宅地の場合、第二種低層住居専用地域だと考えれば良く、戸建て・アパートの賃貸経営や、床面積150㎡以下の小規模な貸店舗が中心になるでしょう。

そのため、宅地では従来と変わらない土地活用になるのですが、問題は農地です。
田園住居地域は、農地の宅地化を規制する方向で新設された用途地域ですから、開発行為には自治体の許可が必要です。

宅地化はもちろん、造成が必要な駐車場や、資材置き場としての活用も規制されますので、自治体の許可が得られない限り、農業を継続する前提で考えなくてはなりません。
つまり、土地活用の視点では不自由になったと言えます。

その反面、これまで住居専用地域では禁止されていた農業関連の施設が建てられます
農産物の直売・加工など、生産だけの農業よりも収入を上げることは十分可能なので、規制緩和のメリットは積極的に利用すべきです。

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